消化器とは
食物を消化あるいは吸収する器官のことで、食道、胃、小腸、大腸、直腸・肛門、肝臓、胆嚢・胆管、膵臓などがこれらにあたります。代表的な消化器疾患は以下の通りです。なお、当院では日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、肝臓学会肝臓専門医である医師が主に診療いたします。
主な消化器疾患
胃炎
胃に炎症が起きている状態を胃炎と言いますが、主に急性と慢性の2つがあります。
- 急性胃炎
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「急性胃炎」とは、前触れもなく、胃に炎症が起きた状態です。腹部が締め付けられるような痛み(胃痙攣)、胃もたれ、むかつき、嘔気・嘔吐など症状は様々みられます。また、症状が進行するようになると、肝硬変や食道・胃静脈瘤など基礎疾患を有したり、飲酒後など頻回な嘔吐したりした場合(マロリーワイス症候群)に、吐血を認めることもあります。
主な原因としては、不摂生な生活習慣(過食・偏食、喫煙、アルコールの過剰摂取、不眠など)、食中毒、薬剤性、過剰なストレスなどが挙げられます。主に胃内の胃酸分泌と胃粘液とのバランス不安定により、発症するとも言われています。
- 慢性胃炎
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「慢性胃炎」とは、急性胃炎が慢性化したものではなく、長期間にわたり繰り返して胃の炎症が起きている状態です。その原因としてやはり現時点でも多いのが、ピロリ菌の感染による場合です。近年、各健診でピロリ菌の指摘から除菌が勧められています。胃がん検診に用いる、血清ペプシノゲン法と抗ヘリコバクター・ピロリ抗体を併用した「ABC検診」を受診され、指摘された方もいると思います。年代別では保菌率50-70%だった年代と比較して、10%未満に達している年代もあります。一方で依然感染に気付かれていない年代の方もやはりおられます。他には薬剤性やストレスによるケースもあります。症状には、食前や食後の腹痛、胃もたれ、胃不快感、胸やけや嘔気などがあります。
「慢性胃炎」と総称されますが、内視鏡を実施された場合、胃粘膜の状態に応じて詳細な病名がつきます。表層性胃炎(胃粘膜の発赤、稜線状発赤を伴う)、びらん性胃炎(潰瘍ほどの深達度はなく、胃粘膜表面にびらん(炎症・発赤を伴う))、萎縮性胃炎(胃粘膜の萎縮)、肥厚性胃炎(表面の胃粘膜が厚くなる)、腸上皮化生性胃炎(慢性炎症による)などと表現・診断されます。
(1972年 木村・竹本分類 1900年/1996年改訂Updated Sydney System 2013年胃炎の京都分類など)ピロリ菌の除菌により、消化性潰瘍や胃がん、特殊疾患の発生リスクが軽減されるのは確かです。保菌ながら未除菌の方は、まずは内視鏡検査での「慢性胃炎」が特定されることで、除菌が保険適応となりますので、ご一考頂ければと思います。「除菌」は抗生剤2種、胃薬PPIを併用の上、1週間の服用治療となります。内容により、1次除菌、2次除菌までは保険適応として実施されます。除菌後の一定期間で除菌の『効果判定』(便抗原 or 尿素呼気検査UBTなど)を実施します。1次除菌後に陽性判定の場合には2次, 3次除菌(自由診療)と、個別に検討致します。また除菌成功後の方でも一定にリスクは残りますので、年1回程度は内視鏡検査を実施頂ければと思います。
胃潰瘍/十二指腸潰瘍
「胃潰瘍/十二指腸潰瘍」とは、各部位の粘膜が何かしらの原因でただれてしまい、胃や十二指腸の内腔で「びらん」と比較してより深く損傷を受けている状態を言います。
胃や十二指腸は胃酸にさらされても耐えられる構造ですが、粘膜層が炎症により損傷・破壊されてしまうと、びらん、潰瘍へと進展することがあります。よくみられる症状には、すっぱいものが喉元に込み上げる、みぞおちの痛み、嘔気、吐血です。さらに潰瘍から出血、胃や十二指腸に穴が開く(=穿孔、穿通→限局性腹膜炎)ということも低確率ですが、あります。
粘膜層が破壊される原因は、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の感染による場合が最も多いと言われています。他の原因として、繰り返し使用する鎮痛薬(NSAIDs)や抗血栓薬の一部を長期服用している、生活ストレス、喫煙や飲酒などによって発症します。以前に比べて、胃薬(PPI(従来型/P-CAB) H2blocker)の進歩や併用投与により、重症化した方には遭遇しにくくなりましたが、早期症状でご相談頂ければ、外来治療が可能です。
肝炎(急性肝障害 急性肝炎 慢性肝炎)/肝癌(肝細胞がん 肝内胆管がん など)
肝臓組織に何らかの原因(ウイルス感染、アルコール、脂肪性、免疫異常、結石性、その他の感染など)で炎症が起こり、肝細胞が炎症、脱落・壊死した、あるいは、しつつある状態を「肝炎」と言います。原因究明や病状の進展評価として、投薬や診断の為に大学病院や総合病院へ紹介します。肝臓組織検査(肝生検)や肝弾性度検査(フィブロスキャン)、肝MRI(EOB造影)、肝臓造影超音波、肝臓ボリームメトリー(肝重量測定)など行います。
急性肝炎、肝障害では原因に応じて、肝再生を狙った入院治療へ。ウイルス性肝炎の中でも慢性化、ウイルス型やウイルス量に応じて、HBVへの核酸アナログ投与でのウイルス制御、HCVへのインターフェロンフリー治療(経口薬による直接作用型抗ウイルス薬:DAAs)
で高確率のウイルス駆除(ウイルス学的駆除:SVR)を実現できるようになっています。
ウイルス駆除、制御されている方の中でも、あいにく「肝がん」が発生してしまう事例も散見されます。ハイリスク群として一定の観察期間での腹部超音波、腹部CT、肝臓MRIなどは随時、検査提示と実施相談をさせて頂きます。
ただ、昨今、脂肪性肝炎/肝障害の増加や、前述のHBV, HCVなど慢性肝炎の状態としてfollowしていない方々の中でも、一定確率で肝腫瘍 肝がんが出現することが少なからずあります。観察は上記に準じますが、肝がんには種別や腫瘍サイズ、個数、周辺の脈管浸潤の程度などを考慮して、外科での肝臓切除術、動脈カテーテルによる腫瘍の栄養血管の途絶=兵糧攻め(腫瘍塞栓術・腫瘍化学塞栓術・動注療法など)、一定のサイズ・個数内に限り局所治療(ラジオ波焼灼術など)、抗がん剤としての分子標的薬、放射線療法など個々の病状により治療選択されます。
胆石/胆のう炎
胆道(胆嚢 総胆管など)にできた結石を「胆石」と言います。胆石は胆汁を主体にしたビリルビン結石、コレステロール主成分のコレステロール結石、カルシウム結石など単一あるいは混合石、混成石として混じり合ったものがあります。多くは結石を保有していても、無症状(無症候性胆石)ですが、時に症状を来す場合があります。右脇腹が食後中心に痛み(典型例はMurphy sign)、嘔気・嘔吐、食欲不振などです。結石の移動・内圧上昇による「疝痛発作」だけの場合もあれば、また胆のうの出口(胆嚢管)や総肝管を炎症による浮腫などで圧迫すると、胆道閉塞(Mirizzi症候群)・内圧上昇により疼痛、黄疸など起きる場合を「急性胆のう炎」と判断します。
胆石を発症しやすい要因には①脂質異常症(コレステロール値が高い) ②40代以上 ③肥満 ④中高年の女性、という報告があります。
症状に応じて、まずは鎮痛薬や胆汁の流れを改善する薬(内圧改善 溶解薬)を使用します。
但し、急性期については中等度以上では、胆嚢内圧を逃がすため、超音波やレントゲン透視を確認しつつ、肝臓を一部経由して胆のう内へチューブ挿入する、経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD or PTGBA)を検討されます。閉塞部位の解除や採石を優先する必要や胆石性膵炎を合併している場合には内視鏡治療の選択肢も考慮される場合もあります。また発症超早期の場合あるいは消炎後の亜急性期に外科的に胆嚢摘出術や胆道切石などを行う場合もあります。
胆管炎
胆管とは肝臓で作られた胆汁が胆のうで貯蔵された後、食事に応じて十二指腸へ分泌される管のことを言います。この胆管に何らかの原因で細菌が繁殖(腸管からの逆行性感染)や結石による閉塞、元々個々に存在した十二指腸憩室による総胆管や膵管を機械的に圧迫しておこる(Lemmel症候群)などの存在で炎症が起き、発熱・右上腹部痛・黄疸・嘔気など症状がみられている状態が胆管炎(=急性胆管炎)と言います。
発症の有無については、血液検査や腹部超音波検査で診断をつけます。
急性期には腹部CTや腹部MRI/MRCPを併用することもあります。
治療は、病状の進行具合によって異なります。症状が比較的軽い場合は禁食、補液の上、抗菌薬による薬物療法へ、胆石の閉塞が原因であれば併行して閉塞解除も行われます。
状態に応じて、閉塞した胆管の採石やステント(チューブ)を挿入して、胆汁の流れを解消する胆管ドレナージ(内視鏡的逆行性胆管造影および胆道ドレナージ: ERCP/ERC)を検討、実施されます。どちらも大学病院や総合病院での実施となります。
胃がん
「胃がん」とは、胃粘膜の腺細胞から発生する上皮性腫瘍を言います。発生の原因としては、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)に感染後、持続的に起きる胃壁損傷(慢性炎症)が原因として多いものの、他にも食生活の乱れや喫煙、遺伝子異常など複合要因が関係しているとされています。
初期では自覚症状がみられず、ご自身で気付かれることか難しいのが現状です。初期で胃がんを指摘された大半の方は、健康診断や人間ドックでの検査時に見つかることが殆どです。
その為、早期発見・早期治療に定期的な胃カメラなどを受けることが、非常に大切です。
なお胃がんは、ある程度進行してようやく症状が出るようになります。その際は、食欲不振、胃痛、胸やけ、嘔気・嘔吐、検査値での貧血などです。また胃がんは進行度(深達度や垂直進展、癌の分化度(分化癌、低分化癌、未分化癌など)に応じて、根治治療として内視鏡切除(ESD: 内視鏡的胃粘膜切除術)や、外科的切除(腹腔鏡補助あるいは開腹切除)による胃部分切除、胃全摘・リンパ節郭清などが必要になります。病期により抗がん剤による術前後の治療を必要とされることもあります。胃がんはかつて戦後直後の診断ステージ、治療法と異なり、現在は早期発見でのがん切除においては、治癒率は9割以上ともされています。
大腸がん
腸の粘膜から発生される悪性腫瘍で、大腸にできるがんを総称した呼び名が「大腸がん」です。そのため、大腸がんは発生した部位によって病名が異なります。結腸がん(盲腸からS状結腸付近)、直腸がん(直腸)、また肛門部がん(肛門管)と診断されます。発生原因については様々な疫学的調査の結果、日本人の「食の欧米化」により発症者が急増してきていることも指摘されています。
主な症状ですが、自覚症状が出ないので初期から見つけることは難しいです。多くは定期の健康診断での「便潜血検査」で指摘され、精密検査として実施された大腸カメラ(下部消化管内視鏡検査)や進行期がんの一部ではCTなどの諸検査で発見されます。自覚的には「痔」だと感じたり、お腹が張ったりする方など、便潜血検査が陰性でも大腸カメラによる検査を行うことは非常に有用と考えます。大腸がんは50歳を過ぎてから発症することが多く、50歳前後の方はこれといった症状がなくともできる限り1度は検査を受けるようご検討ください。また比較的若い方でも低確率ながら、大きなポリープや、大腸がんが見つかる例もあります。ご心配な方は説明を十分ご理解した上で、内視鏡を行うのも1つと考えます。進行すると、血便、下痢/便秘の繰り返し、残便感、腹部膨満感、体重減少などが現れることがあります。
治療には、早期に発見された場合(大腸ポリープ:大腸腺腫 腺腫内癌 早期大腸癌など)は内視鏡による治癒切除が可能です。ただ、ある程度の進行(粘膜下層から一定の距離浸潤)してしまうと、他臓器や所属リンパ節への転移することも珍しくありません。主病変の部位に応じて結腸や直腸の切除手術のほか、リンパ節や血管処理、転移部位の治療が必要です。